インタビュー(小川糸さん)

2018年1月1日

● インタビュー ● 「ファミリーツリー」  小川糸さん
2010年
20160927close/BOOKSERVISEサイト転記(テキストのみ)

小川 糸さん(おがわ いと)
プロフィール
1973年生まれ。
著書に小説『食堂かたつむり』『喋々喃々』、『ファミリーツリー』など。
作詞家・春嵐としても活動。音楽制作チーム“Fairlife”に参加し、映画「食堂かたつむり」の主題歌を含む3rdアルバムを2月3日にリリース予定。

「物語の神様」を慕い続けて。

小川糸さん、作品。

多部未華子ちゃん主演ドラマにもなりました。

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今、評判の映画『食堂かたつむり』。この作品で2年前に小説デビューして以来、『喋々喃々』『ファミリーツリー』と、
快調なペースで話題作を発表し続ける小川糸さん。でも、それ以前には「神様」にずっと片思いの時期があったようで…。

――近著『ファミリーツリー』は少年を主人公にした「家族」の物語です。「家族」って何でしょう。
家族だから分かり合えるわけではありません。血が繋がっているからこそ、逆にわかり合えないのが家族だと思っています。臍の緒が切れた瞬間から他人ですし、その他人同士が、密接した環境の中でいかにお互いを理解していくか、その悪戦苦闘の中から、ようやく繋がりが生まれてくるのではないでしょうか。
この作品は、マラソンをしているような感じで書きました。ただ、自分の中で決めていた「ヨーイドン」のタイミングで走り出すことができず、慌ててスタートしたので、ペースはめちゃくちゃ。ゴールした瞬間は意識が朦朧としてしまって。
後から振り返ると、体力的にも精神的にも相当きつかったのですが、書いている最中は、夢見心地で、とても幸せで、物語の世界を堪能していました。ランナーズハイみたいな感じでしょうか。

――小川さんの小説はどれも、食べ物が本当においしそうです。
実は、食べ物の描写に関して、あまり本人は意識していません。ただ、同じ食べ物を食べることによって生まれる連帯感みたいなものは、すごく感じます。少しずつお互いの距離が縮んでいくような。食べ物のある風景は、心がホッとしますし、それは私の体や心に染みついているものなのかなって思います。
私自身の食生活ですか? 普段は、玄米に納豆、お味噌汁、それに野菜があったら十分。そこに魚の干物が加わるだけで贅沢だなあ、と思ってしまう。野菜は、近所の畑で採れた野菜。卵も、近くの鶏を飼っている農家から。できる範囲で地産地消を心がけています。
もうお酒も飲まなくなったので、浮いたお金で、たまに近所のお菓子屋さんでケーキを買います。『食堂かたつむり』の主人公・倫子みたいに、若い女性が一人でがんばってやっているお店で、本当に美味しいんですよ。

――人間のどんな面を描いていきたいですか。
先日、中島明子さんという元看護師の書かれた『バス水没事故 幸せをくれた10時間』(朝日新聞出版)という本を読みました。団体旅行のバスが、台風で水かさが増した川の濁流に飲まれ、乗客37名がバスの屋上で水に浸かりながら夜を過ごし、救出されたという実話です。
最初は、他人同士。けれど、同じ運命を共にして、助け合い、かばい合い、励まし合いながら、全員が生き延びました。私は、そういうものなんじゃないのかな、と思います。極限の状況になった時、私が私が、と自分だけ助かろうとするのではなく、みんなで協力し合う、それこそが人間なんじゃないのかなあ、と。
連日、ニュースでは目や耳を疑いたくなるような事件が報道されます。だから、せめて物語の中だけでも、人間の優しさだったり強さだったり、そういういい面に光を当てたいと思います。
私が、小説を書くにあたって大切にしていることは「心で書く」ということ。それと、物語を書くことは、子供を身ごもり出産することととても近いことだと思うので、一つの作品を書いている間は、常におなかを意識するというか、実際におなかに物語という実態があるような気持ちで書くよう心がけています。

――物語を書きたいと思うようになったのは、いつ頃から?
気がついたら、そう思っていましたね。『食堂かたつむり』の中に「料理の神様」という表現が登場しますが、それと全く同じ存在として、私にも「物語の神様」がいます。私は飽きっぽい性格なのですが、物語を書くことだけは、どうしても諦めきれませんでした。「物語の神様」は、私にとって、永遠に慕い続ける恋人みたいな存在です。
ずーっと片思いの時期が長くて、本気で物語を書こうと思ってからの十年くらいは本当にしんどく、まさに『ファミリーツリー』の流星(主人公)が、上京して何もかもうまくいかず自分自身に苛立っていたような、それと同じものを経験しました。自分はこの世の中の何とも繋がりがなく、役に立たないのだと思うことが、とても辛かったですね。
そんな中で、第一回ポプラ社小説大賞に『食堂かたつむり』を応募しました。選考の過程で落ちてしまったのですが、それでも手を挙げてくださった編集の方がいて、そこから二人三脚で作品を直しました。今となっては、受賞しなかったからこそ、多くの方に読んでいただけるものになったと思っています。

――今後のご予定は。
自分がどうやったら心地よいペースで執筆を続けられるのか、三作書いてようやくわかってきました。仕事は午前中の早い時間。今は、早寝早起き、スポーツ選手のような生活です。
次回作は、私の中では『ファミリーツリー』と兄弟のような作品になりそうです。南の島が舞台。『ファミリーツリー』が「強い」作品を意識したので、次は「太陽みたいな」作品にしたいと考えています。今後も、読んでよかったと思える作品、生きるのに前向きになれたり明るい気持ちになれたりする作品を書きたいですね。

※このインタビューは、質問状に文章でお答えいただいたものをまとめました。

原作も良かったけど、ドラマ面白かったです。

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