インタビュー(丁宗鐵さん)

2018年6月1日

● インタビュー ● 「医者のいらない暮らしがしたい」  丁 宗鐵さん

掲載:2007年
20160927close/BOOKSERVISEより転記(テキストのみ)

丁 宗鐵さん
プロフィール
医学博士、日本薬科大学教授
1947年、東京生まれ。
横浜市立大学医学部大学院終了。76年、北里研究所入所。
同研究所東洋医学総合研究所診療医長、研究部門長等を歴任。この間、米国スローン・ケタリング癌研究所に客員研究員として留学。96年、東京大学大学院助教授。
04年、日本薬科大学教授。05年、東京女子医科大学特任教授。日本未病システム学会常任理事。NHKラジオの健康相談を20年間担当。

丁宗鐵さん、著書。


まず、自分の体質を知る。
それが健康に暮らす第一歩。

「長生きをしたい」。それは誰もが思うこと。
さらに、こう願う。「医者の世話にならないで――」
そんな望みに応える本が、いま評判を呼んでいる。
『医者のいらない暮らしがしたい』
東洋医学を中心にした、健康に生き抜く秘訣を紹介する本。
著者の丁宗鐵先生にお話を伺った。

●流行ではない健康法
様々な健康法がブームのように語られる。「何々を食べるとよい」「これをやれば大丈夫」「私はこうして健康になった」等々。だが丁先生は、それを誰にでも当てはめるのには無理があると語る。
「健康法というのは服みたいなもので、その人に合っていなければ意味がない。他の人が着てどんなに素晴らしくても、自分に合うとは限りません。まず体質を知って欲しいですね。体質がわかれば、自分にとって何が益になり、害になるかがわかる。病気になりにくい生活のペースもつかめます」
個人の体質によって病気の予防法や治療法は異なる、というのは漢方の基本的な考え方である。
「漢方」――古いイメージがある一方、実用性を重視する医学としていま見直され注目されている漢方とは、どういうものなのか。丁先生が、漢方に長く携わることになった、きっかけとは。

●漢方との出会い
ひとつ注意しておきたいのは“漢方”イコール“漢方薬”ではないということ。漢方薬は漢方の一分類ではあるが、鍼灸はもちろん食事のとり方を含めた養生も漢方である。中国の影響は受けているものの日本伝統の医学。ヨーロッパの医学が日本に伝えられて以来、漢方と呼ばれるようになった。
「私は在日韓国人です。小学生のときから歴史家になりたかったのですが、御多分に漏れず家が貧しく、食べていくためには医者になれと親にすすめられました。横浜市立大学医学部に進学したものの志を変えたことに屈曲した思いがありました。でも、入学して一週間目の新入生歓迎会のとき、同じ高校の先輩から、つぶれそうなクラブに勧誘されましてね。それが漢方を勉強するクラブだというのです。医学の領域の中でもこんなに歴史と深く関わった分野があるのか・・・。これだ!と思いましたね」
当時40ほどあった医学校の中で、同大学が唯一東洋医学を教える講座(医学の歴史を教える「医史学」の講座)があったという偶然も重なった。漢方の大先生方が存命中のことでもあり、漢方を学ぼうとする医学生は珍しがられ、随分お世話になったという。
「40年前ですからね。クラスメイトからは、変わり者呼ばわりされました。でも、こんなに面白い医学は他にない。いまはみんな知らないだけで、自分の目の黒いうちに絶対日の目を見ると思っていました。その重要性を伝えていく使命感もありました。西洋医学と東洋医学を同じウエイトでやっていこうと決意したものです」

●漢方と西洋医学
いま、漢方が見直されているのにはどんな背景があるのだろうか。
治療法についていえば、漢方は、同じ病気でも患者一人ひとりの体質によって治療法を変える。西洋医学は、標準を仮定して、それを医療の前提に据えて、いちばん多い人に照準を合わせた治療法を選択する。この“標準”からはずれてしまった人たちが、個別に対応する漢方でいい結果を得ている事実があるだろう。
体質と生活習慣まで見て処方する漢方薬は副作用が少ないということも認められている。
また、西洋医学の遺伝子レベルの研究と漢方が昔から主張している体質理論はあまり矛盾しないことがわかってきた。米国でも東洋医学でいう「中庸」――年相応のペースをつかみ、その年齢の中で、最も健康であることを目指す――を理想とする「オプティマムヘルス」という健康観が生れてきていることなどもあげられる。
「未病という言葉が浸透してきました。これは日本だけの概念でした。何となく体の調子がすぐれないという、病気になる前の、火事でいえばボヤの状態です。自分の体質を知っていれば、火事を防ぐことができます。いま、この言葉がMibyouと国際医学用語にまでなっている。西洋医学の医師たちも漢方に関心を持ち始めている実感がありますね」

●診療の現場から見えるもの
漢方は、病気と人間の体をじっくり観察する中で、人それぞれに「体質」があることに気付き、その体質にあった処方を考え出してきた。しかし、体質も環境の影響を受ける。現代は、精力的に働きつづけられる人を優先する社会。本来、体のバランスがとれた人でも、オーバーペースで体のサインに気付きにくい「実証」の体質に傾きやすい。一方、パワー不足の「虚証」の人はついていけず、やる気がないと見られがち。丁先生はニートと呼ばれる人たちの多くが「虚証」ではないかと考えている。
「体質を考えると、世の中が見えてきます。短期間に成果をあげる「実証」寄りの人と、長いスパンで考えたほうがいい「虚証」寄りの人がいることを考えると、教育もいまのままでいいのかなと思います。本当の意味での個別指導があってもいいのではないかと」
丁先生は、学生時代に目指したように、東洋医学と西洋医学の両方を学び、補う関係を見つめてきた。個性が尊重される時代、健全な長生きが望まれる時代、漢方が果たす役割はさらに大きくなるのではないかと考えている。