インタビュー(佐伯泰英さん)

2018年5月29日

● インタビュー ● 佐伯 泰英さん

2007年
20160927close/BOOKSERVISEサイト転記(テキストのみ)

佐伯 泰英さん
プロフィール
1942年、北九州市生まれ。
日本大学芸術学部映画学科卒業。71年より74年末までスペイン滞在。
闘牛カメラマンとして活躍後、ノンフィクション、冒険小説等の執筆を経て99年から時代小説に転向。魅力あふれる登場人物、人情味豊かな庶民性を生かした作品を次々に発表。

佐伯泰英さん、作品。


文庫書き下ろし時代小説、百冊達成。
百通りの爽快感!

好評に応えて、作家は書く。
次はまだか、の声に押されて、書く。
その累計で1400万部超が出版された。
何が読者を捉えて放さないのか、その秘密に迫る。

小説家になる前は、スペインで闘牛の写真を撮り続けていらしたとか―
大学は映画学科でした。でも卒業しても映画が不況の時代で就職先がなく、しばらくフリーで撮影助手をしているうちに、僕には向いてないと思うようになりました。映画は組織で作るもの。自分は“個人競技向き”だと。では何をしようかと迷っていた頃に出会ったのが、闘牛でした。スチール写真なら機材もそんなに必要ではない。闘牛の開催に合わせて、スペイン中を巡りましたね。あの頃は闘牛の黄金時代。スター闘牛士がいて、自然に育てられた牛にはパワーとスタミナがあった。
結局4年間いて、日本に戻ってきたのは1974末年。出版社に飛び込みで入って、写真を発表させてもらいました。

小説を書くようになったきっかけは何ですか―
雑誌に写真や文章が載るようになった頃、ある編集者からノンフィクションを書かないかと勧められました。スペイン・闘牛のことでしたら、いくらでも書く材料はありましたからね。2か月で書いた「闘牛士エル・コルドベス 1969年の叛乱」が、僕が書いた最初のノンフィクションです。その後、さらに冒険小説やミステリーなども書きました。
でも、どうしても初版止まり。売れない。出版界も苦しかったときで、ついに担当の編集者がポツンともらしました。「あとは官能小説か時代小説しかないですね」。
官能小説は、一冊は書けると思った。でも毎日書くのはキツい。時代小説なら、時代劇映画を観て育ったし、貸し本で読み慣れてもいる。それで書いたのが「密命 見参! 寒月霞斬り」(1999年)です。56歳のときでした。
今でも不思議なんですが、出版されてわずか10日で重版が決まりました。“文庫書き下ろし”という形が目新しかったのかも知れません。当時は、まずハードカバーの単行本で出して、評価の定まったものだけが文庫になる、というのが一般的でしたからね。

何が読者の心をつかむのでしょう―
バブルが弾けて以来、多くの人が将来に不安を感じています。厳しい現実の中で、あまりにもリアルなものは読みたくない、と思っているのでは。僕の書くものは、江戸時代から見た時代小説ではなく、現代から見た江戸の虚構世界です。史実と絡ませて、歌舞伎のような“ウソ”を描く。リアルな描写は必要ない。斬っても血も出ない。そこに行き着くまでの仕掛けや人の情を書いていきたいのです。
読んでいる間は浮世のいやなことを忘れて欲しい、と会社でも家でも自分の居場所のない50代以上の男性にエールを送るつもりで書いてきましたが、実際には年輩の女性、仕事で神経をすり減らしているキャリアウーマンの方、あるいは海外在住の方も読んでくださっているようです。「よき日本、江戸」をイメージするのでしょうか。

10本のシリーズが進行中です―
売れない時代が長かった作家の性でしょうか。お話があると全部引き受けてしまって・・・。書くときに混乱しませんか、と聞かれることもありますが、それはない。パソコンに向かえば、ただその一作のみ。シリーズとしての“うねり”と、一冊の中の起承転結を考えるだけです。
たとえば、「鎌倉河岸捕物控」シリーズ。僕の発想は“江戸の青春グラフィティー”です。むじな長屋の政次・亮吉・彦四郎が成長していく流れの中で、毎回のドラマを考えます。スタートするときは、「子どもが主人公? 時代小説なのにヒーローがいない!」なんて言われましたが。読んで、多分いちばん“ほわっ”とするシリーズです。ゆっくり楽しみながら書いていきたいと思います。
もちろん10シリーズ、すべて結末をつけるつもりです。それは作者の責任ですからね。

7月から「居眠り磐音 江戸双紙」がTVで放映されます―
映画を少しかじったので、原作と映像は別ものだと思っています。ですから、制作について注文はないのですが、ひとつだけお願いしました。このシリーズは冒頭、3人の青年武士が藩改革の夢を抱いて国許へ帰ります。それが一夜にして潰えて友達同士が闘うわけです。これなくして、23巻は書けませんでした。あの場面があるからこそ、続いたのです。TVではそのシーンは回想という形で入るそうです。
TVをきっかけに、20代の人たちも読んでくれるようになったら、それは新しい読者層。嬉しいですね。