インタビュー(渡辺淳一さん)

2018年1月1日

● インタビュー ● 「熟年革命」  渡辺淳一さん
2007年
20160927close/BOOKSERVISEサイト転記(テキストのみ)

渡辺 淳一さん
プロフィール
1933年、北海道生まれ。医学博士。
58年、札幌医科大学卒業後、母校の整形外科講師となり、医療のかたわら小説を執筆。70年、「光と影」で直木賞を受賞。80年、吉川英治文学賞受賞。2003年、紫綬褒章、菊池寛賞受賞。
「ときめき」が、プラチナ世代を輝かせる。

渡辺淳一さん、作品。

医学、歴史、伝記的小説から
男と女の本質に迫る小説・エッセイまで。
常に文壇の第一線で活躍を続ける渡辺淳一氏が
近著では、熟年の世代に語りかける。
「年甲斐のない人になろう!」

――『熟年革命』が人気です。
人間は、頭も体を使わないと退化する困った生き物です。熟年になってもいきいきと前向きに生きていくためには、どうすればいいのか。僕が自分自身で努めていることを、みんなにも知ってもらおうと思って書きました。
日本人は歳をとると、この年齢でこんなことをしてはいけないとか、恥ずかしい、という意識が強すぎます。確かに日本の文化の中には、歳をとったら、第一線から身を引いて、静かに暮らすべきだという「隠棲の思想」があります。しかし、年齢相応であろうとしたり、世間体を気にして、まわりに合わせようという生き方は、自分で自分の世界を狭くするだけ。そうすると安心でラクかもしれませんが、それでは刺激がなくなり、萎えていくだけです。
自由な時間を手に入れたシニアの世代とその予備軍である人たちには、もっと自分が楽しむことを考えてほしい。世間がどう見るかではなくてね。様々な日常的な出会いを大切にして、好きなものを追いかけ、常に心をときめかせて、自分をいきいきと活性化させる。そんな生き方をする50歳以上の人を「プラチナ世代」と名付けたいと思います。
僕たちは、せっかくこの世に人間として生まれ、そう貧しくはない国、割と平和な21世紀の日本に生きているのです。この幸運を生かして、したいことをしなければ、もったいないでしょう。

――小説『エ・アロール』では、“したいことをしている”高齢者が描かれていますね。
ここでは、単なる「老い」の姿ではなく、「愛」をテーマにして書きました。高齢者施設が舞台になっていますが、歳をとっても、若いときと気持ちはそう変わるものではありません。
「愛」は、人間の中でいちばん力強く、燃え上って、エキセントリックなもの。つくられた老人でなく、生身の老いの姿を書きたかったのです。

――「年甲斐もなく」生きるためには「鈍感力」が必要です。『鈍感力』を書かれた背景には何があるのでしょうか。
今の時代、みな神経質でヒリヒリしすぎて、こういうことから引き起こされる、事件やトラブル、病気などが気になったからです。
「鈍感」にはマイナスイメージがありますが、「無神経」と「鈍感」は違います。いい意味の「鈍感力」は、生きていく上で必要な“復元力”。失敗したり、叱られたり、挫折しても、あまり落ち込まないで、気分を切り替えて前向きに進んでいく力です。そんな力を、精神的にも身体的にも身につけてほしい。
「鈍感力」を育てるには、まず大らかなお母さんに育ててもらうことです。勉強やレッスンのことばかり言わないで、子どもの良いところを認めて、褒めてあげる。成功体験をさせてあげる。子どもが自信をつけて、自己肯定できれば、社会に出てからも強くなります。人間が好きになって、人とコミュニケーションも上手にとれるようになります。子どもは甘やかしてはいけないけれど、褒めないと伸びません。
成人してからも、失敗したことは早く忘れて、成功した体験を思い出しながら、自信を持ち、鈍感力を身につけてほしいと思います。

――中国では渡辺さんの本がたくさん翻訳されているそうですね。
先日、上海へ行って中国語の新刊『あじさい日記』のサイン会などを行ってきました。中国の都市部では裕福な人たちが増え、読者層も広がっています。僕の本も何百万部売れているのか分からない。なにしろ海賊版が多いですからね。サイン会に海賊版を持って並ぶ人もいます(笑)。
しかし海賊版については「ひどい」と言っているだけでは改善しません。中国は法治国家。問題提起のつもりで上海法務院へ提訴しました。中国マスコミは訴えたことに、むしろ好意的なようです。こういうことで出版界が健全化され、お互いの作品がさらに紹介されるようになれば、本当の意味での日中文化交流になると思っています。